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冷たい校舎の時は止まるの感想と考察

大沢在昌氏のカルテットシリーズを読了した際に、氏のインタビュー記事に「辻村深月さんや道尾秀介さんの本を読んでいる方に読んでほしい」といったことが書いてありました。 

カルテットシリーズ自体は、ライトなハードボイルドでありながら大沢在昌節がしっかり効いてて、読みやすいけど読みごたえもある、終盤のドキドキハラハラが堪らない感じだったので、この作品を訴えたかった層が普段読んでいるであろう辻村深月氏の作品にも興味を持ちました。

 

今回は、ネタバレもそこそこ(特に「冷たい校舎の時は止まる」の方は多め)に、辻村深月氏の「冷たい校舎の時は止まる」と殊能将之氏の「ハサミ男」とについて、比較したり分析したりとしていきます。

なお、両氏の作品については、先に読むことをオススメしておきます。

 

 

 

冷たい校舎の時は止まるとは

辻村深月氏のデビュー作であり第31回メフィスト賞受賞作です。

上下巻で1184ページという、なかなかな大長編。

 

先に書いておくと、以降否定的なニュアンスの記載を多くしていますが、私自身は、なかなかに傑作であった、と思っているし、面白かったからこそ色々と思うことがある、といった感じです。

 

 

冷たい校舎の時は止まるのあらすじ

大学受験を控えた高3の冬、雪の中集まった8人の生徒たちは、無人の校舎に閉じ込められる。クラスの学級委員達8人以外の姿が見当たらぬ中、学園祭で自殺したクラスメイトの名を、どうしても思い出せないことに気付く。自殺したというクラスメイトがこの状況に関わっているのか。この8人のうち、1人が死んでいるのでは…? 疑心暗鬼はふくらみ、彼らは追いつめられていく。

迫る5時53分の恐怖と戦いつつも、過去の闇に立ち向かい、彼らは文化祭で自殺したクラスメートの名を探し続ける。

 (引用:冷たい校舎の時は止まる - Wikipedia

 

上巻は主人公たち8人の紹介、8人以外に誰もおらず、外に出ることもできない学校、5時53分になると主人公たちの誰かが消えてしまう、一体誰が自殺したのか、といった前提や謎が提示され、下巻でその謎が解き明かされる、そんな構成のお話です。

 

心理描写が最高

思春期の学生たちの心理描写がもの凄く秀逸でした。

高校生ってこんな感じだよねこんな気持ちで生きてたよね、というところが凄く共感できて、その部分は最高でした。

宮本輝青が散るを読んだ後だったので、高校生と大学生の違いを読むことができてとてもよかったです。

 

物語の謎:誰が自殺したのかについて

登場人物のそれぞれの過去に触れつつ、秀逸な心理描写の中にある思春期特有の心の闇が、物語の謎と絡んでくるのですが、この「誰が自殺したか」について、上巻の途中というかなり早い段階でなんとなく察しがついちゃうんですね。

文章自体、色々とミスリードさせようとしているのはわかるのですが、それがあからさますぎてかえって気付いちゃう感じです。

 

基本的に私は読書していてこういった正解に気付けない側の人間ので、普通の方が読めばまず途中で気付けると思います。

なので、解答編までずっとやきもきしながら読まざるを得なくなる、登場人物たちが校舎から消える直前に気付くのにあえて名前が書かれないのでイラッとする、というのがなんとも残念。

 

解答編で次々に明かされる謎

物語のベースとなっている時間が止まった学校は、誰かの精神世界の中、ということになっています。

なので、常識や物理法則なんて二の次でやりたい放題できる世界なんですね。

そういった中で、物語は上述した「誰が自殺したのか」という謎を主軸に進んでいくのですが、解答編で物語中の謎の答えが一気に明かされます。

 

解答があることですっきりするものの、この解答編がアレだなぁと思うのは、やりたい放題できる世界なんだから謎でもなんでもないただの不条理だと思っていなかったものについても「実は○○でした!」と合理的に明かされること、です。

こちらとしては謎だなんて思っていなかった部分だったので、いきなり明かされたとしても、

「はぁ」

としか思えず置いてけぼりないわけです。

 

明かされたうえで思い返してみると、色々伏線になっていてそれがちゃんと結びついているので、その部分はすごいなぁと思うのですが、そもそもその部分に興味を持っていない、興味を感じていない展開だったので、どうにも没入できず非常に残念でした。

 

ハサミ男について

ハサミ男については、過去にさらっと取り上げています。

 

名作です。

氏の作品は、次の二つが物語の柱でした。

・誰がハサミ男を模倣した事件を起こしたのか

・そもそもハサミ男とはどんな人間なのか

 

この2点について、前者は主人公であるハサミ男の探索を通じて読者が推測していく、後者はハサミ男の行動から読者が推測していく展開です。

そして、物語の終盤で完全に読者の予想を裏切ることで、種明かし時に「ファーッ!!!!!」と鳥肌が立ち、クライマックスまで一気に駆け抜けてしまう、といった具合です。

 

ハサミ男との対比で思うこと

「冷たい校舎の時は止まる」と「ハサミ男」との対比で、一番顕著なのは「謎」に対してどれだけ興味を抱かせることができるか、興味を抱かせ「謎」を物語に生かしつつも決してばれることなく物語を展開できるか、という点に尽きると思います。

「冷たい校舎の時は止まる」は、興味抱かせ続けた「誰が自殺したか」という点については、すぐばれちゃうし、他の謎については、そもそも興味を抱かせられていないから謎としてちりばめた伏線が物語にそこまで生かされていない、といったところが残念に思いました。

 

まとめ

「冷たい校舎の時は止まる」と「ハサミ男」とを読むことで、物語において、謎や伏線についてどのように配置して印象付けることが求められるのか、ということについて多く学べました。

Amazonのレビューで見た「300ページにまとまってくれていれば傑作」という評価は、割と的を射ているように思います。

あるいは、私のように感受性が乏しくなく、繊細な伏線の1つ1つに興味を抱くことができたらなら、最後に一気に鳥肌が立つのかもしれません。

 

8人それぞれの人物について、その内面の未熟さが秀逸に描かれていたのがとても素晴らしく思いました。

この作品がデビュー作とのことで、後の作品についてはまだ読んでいないのでこれから読んでいこうと思います。